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夕方散歩

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歩いていても自転車に乗っていても、猫を探す癖がついている。

家の近くを流れる二ヶ領用水という名前の小さな川の道々には、大小様々の猫が散歩しているのを良く見かける。野良猫は、こちらが近寄ると同じだけの距離をもって後退する。なかなか懐には入らせてもらえない。首輪をつけて心持ちふっくらとしたしているのは飼い猫で、にゃあにゃあと愛想良く鳴き、こちらの前をずんずん歩いて、さも自分の縄張りを自慢しているように見える。「にゃあ」と泣きまねをしてみると、「にゃあぁ」と、応えるように返す。

図書館からの帰り道、川の両側にある遊歩道脇の小さな公園にて、おじいさんと猫に出会う。おじいさんは、あご一面にごましお混じりの髭が生えており、首のぐるりが少し伸びたTシャツを着て、膝に穴の空いたズボンを履いている。猫は野良猫かと思えば、毛並みのずいぶん良いアメリカンショートヘアであった。ミスマッチと言っては失礼になるか、と胸の内で思いながら歩みを止める。

おじいさんはベンチに座っている。猫は遊歩道の縁から川面を覗いている。雨で水嵩の増えた川の流れは早く、いつもと違うその様子に一生懸命首を長くしている。私も一緒になって川面を覗く。そのうち猫は、その様子を報告するかのように、ベンチの上、おじいさんの隣の空いた隙間にぴょこんと飛び乗りにゃあと鳴く。

つられて私もその側まで行き、「名前はなんと言うのですか」と聞く。おじいさんは「うちではミイと呼んどりますよ。猫の名前はだいたいミイと決まっているですねえ。」と、歯が抜けているのか、少し聞き取りづらい滑舌で答えてくれた。しばらくその側で、アメリカンショートヘアの変わった背中の模様をなでる。ミイは抵抗することもなく、気持ち良さそうにする。「お!アメショーだ!」と、部活帰りの高校生二人が自転車で通り過ぎる。

少し暗くなってきたので、おじいさんに挨拶をすると、家に向かって歩き出した。背中から「お前、見てたって、どうせ捕れないでしょう。」と、おじいさんの声がする。見ると、ミイは、川面から続く小さな陸地に休んでいる鳩をじっと見ている。鳩がばっと飛び立つ。ミイもはっと顔を上げる。夕日の方に向かって飛んで行く鳩を、ミイは名残惜しそうにじっと見ていた。おじいさんは「ほら、帰るよ」とミイに声をかけて、夕日に背を向けて歩き出した。ミイは先ほどの鳩のことはすっかり忘れたように、その後ろをとてとてと、小走りに付いていく。

by blossoms_0606 | 2007-10-01 18:42 | 日常

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